ミッドナイト・ラン 1−2

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    店主、東京浅草買い付け出張で不在の為、

    第8回日本四つ葉ブルーベリージャム文学大賞新人賞候補作『ミッドナイト・ラン』でお楽しみください。






    大きな幹線道路沿いを歩く。

    数メートルごとに置かれた街灯が、僕の視界の行く先を橙色のスポットで照らし出す。

    深夜の闇と街灯が、延々と作り出すコントラストが僕は堪らなく好きだ。

    昼には風景の一部として街に溶け込んだ街灯が、ようやく主役に躍り出す。なんだってそうだ。普段は半透明なモノ達がそんな日の目を見る事が出来る時。

    僕は歩く。黙々と。

    踏みつけるアスファルトから微かに伝わってくる感触が、僕の歩を先へ先へと進ませる。

    2分も歩けば、幹線道路も外れて寂れた集合団地に突き当たる。

    フェンス越しから団地を見遣る。

    年期の入った団地の壁には大きなヒビ割れが無数に広がっていて、さながら一本の大きな川が枝分かれしていき、支流を作っているかの様。

    無味乾燥な人工物と、時の流れという止める事の出来ない自然との調和が生み出すデザイン。

    見ているだけでゾクゾクする。

    ベランダ側の方を見回すと、まだテレビの深夜放送も面白い時間帯、あちこちの階からカーテン越しにブラウン管の鈍い光が漏れている。

    去年の今頃、僕もあのカーテンの向こう側の様な生活を送っていたっけな。


    その日も夜遅くまで起きていた。

    毛布に包まってテレビを眺めながら、ここは笑う所ですよ。と、親切なテレビテロップの言われるまま、

    薄ら笑いを浮かべ、残り少ない学生生活の自由な時間を無駄に消費していた。

    「お〜い」

    窓の外からの声に気付いた。

    僕の部屋は2階にあって、隣が駐車場という事もあり、窓を開ければ結構な空間が広がる。

    そりゃたまに、どこの輩か分からない連中が騒いでいる事はあったけど、こんな事は初めてだった。

    「お〜い」

    また聴こえてきた。女の声だった。

    首が出せるくらいの間隔だけ窓を開け、恐る恐る駐車場を覗き込んでみた。

    「私の事、知ってる?」

    覗き込んだ僕と目が合うなり、女は言った。

    「知ってる?」

    続けざまに言われ、僕は身動きが取れなかった。

    「覚えてる?」なら未だしも「知ってる?」と訊ねてきた。

    しかも僕がこの部屋で生活しているという事を知っていて、わざわざこんな時間に駐車場から声を掛けてきた。

    おかしい、知らないはずがない。

    相変わらず僕は女と目と目を離せられずにいた。

    でもこの感覚をデジャウ゛というのか、この女を僕は間違いなく「知っている」どこかで見た事も話した事もある。

    けど、それがいつどこでなのか思い出せない。微かな記憶の断片を辿りながら、あと少しという所で、

    「じゃあね。」

    女は笑顔で手を振りながら、駐車場の入り口に向き直り、落ち着いた足取りで去っていった。

    僕がその歩いていく後ろ姿を見つめているのが分かっているかのように。

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