ミッドナイト・ラン 1−1

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    店主、東京浅草買い付け出張で不在の為、

    第8回日本四つ葉ブルーベリージャム文学大賞新人賞候補作『ミッドナイト・ラン』をお楽しみください。






    昼には吹かない風がある。

    夜の静けさそのままに凛としていて、昼間の太陽で暖められた風と違い、 顔にまともに面食らう風。

    「ちゃんとしろ」って言われてるみたいな気がして。そんな風が僕は好きで、深夜徘徊を始めた。


    家から外に出るのは、決まって夜の2時過ぎ。

    真上に住んでいるフリーターの女の子(隣に住んでる水島さんから聞いた話)が帰ってきて、

    テレビの音やら部屋を動き回る音がうるさいので、ちょうど良い時間。

    こんなご時世、文句の一つ言いに行って、後ろに怖い男が付いていたら、おっかない。

    だから僕はいつも仕事から帰ってきて、まず風呂に入り、床に就く。

    それから深夜1時過ぎ、目を覚ます。最終電車がフェンスの向こうを通過する時間。


    生きているうちに良い事も悪い事も、おんなじ数だけ起こるらしい。

    昔、じいちゃんが言っていた。

    最近になってその話を思い出しては、良い事の大半は記憶も定かではないうちに使ってしまうんだろうなとよく思う。

    会社帰り、ファミレスの横を通った時、ガラスの向こう側で母親に抱えられている赤ん坊を見た時や、

    公園のベンチでベビーカーを仲良く覗き込む夫婦を見た時、なんだか無性に泣きたくなる。


    靴紐は緩めに結んでいる。僕は靴紐を結ぶのが苦手なんだ。だからこうやって緩めに結んでおけば、そうすぐ解けて結び直す必要もない。

    立て付けの悪いドアをゆっくりと開け、2階の部屋から降りて僕はまず、アパートの前の自販機で聞いた事も無いようなメーカーの缶コーヒーを買う。

    負け犬主義というか何というか、こういう人気のないモノは、例え、体に悪かろうが応援してしまいたくなる。

    毎回、缶コーヒーを飲みながら、今日はどう徘徊しようかと考える。


    高校からエスカレーター式で大学に上がり、同じような友人たちと気楽な学生生活を送り、

    たいして先のことなど何も考えず、小さな会社の営業として就職、職場から少し離れたこの街でアパートを借りた。

    駅前以外は寂れたこの街も、昔はこの辺りでは有名なベッドタウンだったそうだ。

    きっと僕が子供の頃は、この街も若い夫婦や子供連れの家族がたくさん住んでいたんだろう。

    そして僕が大きくなったのと同じように、子供達も独り立ちしていき、若かった夫婦も年を取り、郊外に家を建て移り住んで行ったのだろう。

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